2026年7月8日、TypeScript 7.0 が正式リリースされました。目玉は新しい構文ではなく、コンパイラ本体が JavaScript 実装から Go 実装のネイティブバイナリに置き換わったことです。公式ベンチマークでは型チェックがおおむね 10倍前後高速化し、エディタの応答も体感できるレベルで改善します。

結論を先に言うと、「普通の TypeScript プロジェクト」は npm install するだけで恩恵を受けられます。

一方で Vue・Svelte・Angular などテンプレート型チェックを持つフレームワークと、コンパイラ API に依存するツールはまだ移行できません。この記事では、何が変わったのか・どう入れるのか・何に気をつけるのかを順に解説します。

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TypeScript 7.0 は「機能追加」ではなく「エンジン載せ替え」

これまでの tsc は TypeScript 自身で書かれ、Node.js 上で動いていました。7.0 ではこれを Go に移植し、ネイティブコードの速度と共有メモリによる並列処理を手に入れています。

プレビュー期間中は tsgo という名前で配布されていたものが、正式版では従来どおり tsc コマンドとして提供されます(tsgo という名前が残るのは nightly の @typescript/native-preview だけです)。

公式が公開している実プロジェクトでのフルビルド(型チェック)時間は次のとおりです。

  • VS Code(約230万行): 125.7秒 → 10.6秒(約11.9倍)
  • Sentry: 139.8秒 → 15.7秒(約8.9倍)
  • Bluesky: 24.3秒 → 2.8秒(約8.7倍)
  • Playwright: 12.8秒 → 1.47秒(約8.7倍)

メモリ使用量も 6〜26% 削減されています。エディタ体験の改善はさらに顕著で、VS Code リポジトリでエラーのあるファイルを開いたときの表示が約17.5秒から1.3秒未満になった例が公式ブログで示されています。

言語サーバー自体も刷新され、コマンド失敗が80%以上、クラッシュが60%以上減ったと報告されています。

インストールと TypeScript 6 との併用

インストールは従来と同じで、typescript パッケージを最新にするだけです。

npm install -D typescript@latest
npx tsc --version  # Version 7.0.x

後述するとおり 7.0 にはプログラマティック API がまだ無いため、typescript パッケージの API を参照するツール(typescript-eslint など)のために 6系の互換パッケージ @typescript/typescript6 が公開されています。

npm エイリアスを使えば、typescript という名前のまま6系を解決させて既存ツールを動かしつつ、7系と併用できます。

# API 依存ツール向けに typescript を 6 系へ向ける(npm エイリアス)
npm install -D typescript@npm:@typescript/typescript6

6系は当面メンテナンスが続くため、後述の非対応ケースに該当するプロジェクトは慌てて上げる必要はありません。

主な破壊的変更と対処法

7.0 は速度だけでなく、古い既定値の整理も同時に行っています。移行時に引っかかりやすいのは次の変更です。

  • target: "es5" のサポート廃止(ES2015 以降のみ)。出力は ES モジュールが既定に
  • rootDir の既定が "./" に変更(従来はソース配置からの自動推定)
  • types の既定が [](node_modules/@types を自動で全読み込みしなくなった)
  • baseUrl や moduleResolution: "classic" など旧式のモジュール解決設定が非推奨・廃止
  • テンプレートリテラル型の文字処理が UTF-16 サロゲートペア単位から Unicode コードポイント単位に
  • JS ファイルの解析が厳密化(JSDoc の @enum など一部パターンが特別扱いされなくなった)

対処の基本は「暗黙の既定に頼らず tsconfig に明示する」ことです。rootDirtypes を明示し、baseUrl ベースのパス解決は paths に寄せます。

{
  "compilerOptions": {
    "target": "es2017",
    "module": "esnext",
    "moduleResolution": "bundler",
    "rootDir": "./src",
    "types": ["node"],
    "paths": {
      "@/*": ["./src/*"]
    }
  }
}

普段からモダンな設定で運用しているプロジェクトであれば、実際に手を入れる箇所はほとんど無いはずです。

まだ 7.0 に移行できないケース

全員がすぐ上げられるわけではありません。次に該当する場合は 6 系に留まるのが正解です。

  • Vue / Svelte / Astro / MDX / Angular のテンプレート型チェックを使うプロジェクト。Volar などのツールは TypeScript を自前のコンパイラに組み込んでおり、現時点では TypeScript 6.0 にしか対応できない
  • ts-loader など、コンパイラのプログラマティック API に依存するツールを使うビルド構成。7.0 には API が同梱されておらず、提供は 7.1 の予定
  • target: es5 でのビルドが必須のレガシー環境

エディタ側は、VS Code なら専用拡張機能のインストールで新しい言語サーバーが使えます。Visual Studio は自動的に TypeScript 7 が有効になります。

移行手順チェックリスト

  1. 依存を洗い出す: Vue/Svelte/Astro/MDX/Angular のテンプレート型チェックや、コンパイラ API 依存ツール(ts-loader 等)が無いか確認する
  2. まず TypeScript 6 系の最新に更新し、baseUrl などの非推奨警告を解消しておく(7.0 への差分が小さくなる)
  3. tsconfig の rootDir / types / target を明示的に書く
  4. npm install -D typescript@latest で 7.0 を導入し、npx tsc --noEmit で型チェックが通ることを確認する
  5. CI のビルド時間を前後で計測し、効果を確認する
  6. VS Code に専用拡張を入れて、エディタでも新しい言語サーバーを使う

まとめ:ほとんどのプロジェクトは「入れるだけで10倍速」

TypeScript 7.0 は言語仕様の大変更ではなく、エンジンの載せ替えです。破壊的変更は古い既定値の整理が中心で、モダンな構成のプロジェクトなら移行コストはごく小さく、型チェックとエディタ応答だけが劇的に速くなります。

待つべきなのは Volar 系フレームワークとコンパイラ API 依存ツールのユーザーだけで、そちらも API が入る 7.1 で解消に向かう見込みです。

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参考リンク

  • Announcing TypeScript 7.0(Microsoft 公式ブログ): https://devblogs.microsoft.com/typescript/announcing-typescript-7-0/
  • microsoft/typescript-go(GitHub): https://github.com/microsoft/typescript-go